德薙零己の読書記録

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オマール・アボッシュ&ポール・ヌーンズ&ラリー・ダウンズ著,小林啓倫訳「ピボット・ストラテジー:未来をつくる経営軸の定め方、動かし方」(東洋経済新報社)

ピボット・ストラテジー―未来をつくる経営軸の定め方、動かし方

ピボット(pivot)。元々の意味は英語の「回転軸」。

それが現在のビジネスシーンでは「事業転換」や「方向転換」を意味する語となった。特に、これまで取り組んできた事業から他の事業へ転換することをピボットと指すことが多い。

たとえば、日本に生まれ育ったビジネスパーソンはもれなく任天堂の製品を知っているはずである。任天堂の製品を持っていなかったとしても、任天堂の生み出した製品が時代のムーブメントを作りあげたことを知っているはずである。

それでいて、任天堂の製品と聞いて思い浮かべる製品は時代とともに変化している。初代ファミコンや、その前のゲームウォッチスーパーファミコンに、ゲームボーイに、Wiiに、Switch。任天堂は次々と新しい製品を世に送り出し、常に時代の最先端を走り続けてきている企業である。

それにしてもどうして任天堂トップランナーであり続けることができているのか?

本書の記載によると、既存製品の売れ行きが落ち始めるタイミングでその時代の最先端の製品を世に送り出していることが見てとれる。これはもう、任天堂という企業が本書の主題であるピボットを継続させ続けている企業であると評価するしかない。

本書が取り上げている企業における数少ない日本企業のうちの一つが任天堂であるために任天堂について記したが、世界を見ると、任天堂と同様にピボットを繰り返している企業が存在し続けている。時代の移り変わりに合わせて、ビジネスの構造を、そしてビジネス戦略を変化させ続けなければ存続し続けることが不可能であるというのは古代から続くビジネスの鉄則である。

思い浮かべていただきたい。

スマートフォンがあるおかげで存在しているビジネスは、スマートフォンを超える存在が世界の当たり前になったときにも存続し続けることができるであろうかを。

さらなる少子化が進んだために人材を確保できなくなった企業が、人員不足の環境下で既存のビジネスを継続するにはどうすべきかを。

1ドル100円が当たり前であった時代から1ドル150円となったことでどれだけの影響が出たか、さらに1ドル200円という時代を迎えたらどうなるかを。

今のビジネスが存続できている理由を考えたとき、その前提が破壊されてもなおビジネスの存続は可能かという視点を持たないと、ゴーイングコンサーンは破綻する。

ピボットは破綻を回避させるための有効な手段である。