六国史は平安時代初期までの日本の正史であり、日本書紀が律令制成立まで、続日本紀が奈良時代を扱っている。そして残る四つの歴史書、すなわち、日本後紀、続日本後紀、日本文徳天皇実録、日本三代実録で、四〇〇年間続いた平安時代のうちはじまりの一〇〇年間を扱っている。
この六国史の内容は基本的に編年体であり、何年何月何日に何が起こったのかを機械的に記しているのであるが、唯一、歴史に名を残す著名人の死に際しては薨卒伝としてその人の生涯の略伝を記している。この薨卒伝は機械的な記載に徹している六国史の中で人間らしさを表しており、六国史を読む者にその人がその時代にどのように生きてきたのかを深く思い巡らせる記述である。
本書は六国史のうちの日本後紀と続日本後紀に薨卒伝が記された著名人達を追いかけ、その人に対する思いを著者が書き記している書籍である。
以下が本書の目次であり、同時に、本書で取り上げられている著名人である。
- 第一章 『日本後紀』に見える薨卒伝
- 藤原継縄 ― 平凡な名門貴族が右大臣に上り詰めた裏事情
- 善珠 ― 朝廷の公式歴史書にまで書かれた宮中の噂の真相
- 羽栗翼 ― 朝廷からも重宝された「帰国子女」の正体
- 行賀 ― 優秀な遣唐僧が東大寺の僧に怒られた意外な理由
- 和家麻呂 ― 天皇の外戚で大出世、人柄で愛された渡来系官人
- 藤原乙叡 ― 失態の原因は?政変に翻弄された藤原氏嫡流のエリート
- 藤原仲成 ― 天皇の後継争いに巻き込まれた、藤原式家の官人の最期
- 藤原縵麻呂 ― 無能でも愛すべき藤原仲成の異母弟の正体
- 藤原友人 ― 出世より仙人に憧れた?風変わりな貴族
- 伴弥嗣 ― 飛鳥時代の名族・大伴氏の末裔の困った性癖
- 紀長田麻呂 ― 最後まで名声を求めなかった名門・紀氏の珍しい官人
- 紀末成 ― 早くに出世した紀氏の官人が地方官止まりだった理由
- 安倍真勝 ― 没落する名族の中で僅かな出世を遂げた安倍氏の官人
- 佐伯清岑 ― 清廉さゆえ民を苦しめた?古代の名族・佐伯氏の官人
- 藤原継彦 ― 出世より趣味を選んだ藤原京家の始祖・麻呂の子孫
- 酒人内親王 ― 天皇に寵愛されながらも政争に翻弄された内親王
- 藤原真夏 ― 官歴を消された藤原北家の官人が遺したもの
- 藤原世嗣 ― 藤原式家の官人に見る官僚人生をまっとうする尊さ
- 第二章 『続日本後紀』に見える薨卒伝
- 空海 ― 後世の伝説へ繋がる六国史に書かれた空海の最期
- 甘南備高直 ― 天皇から民衆にまで愛された皇親氏族
- 池田春野 ― 長寿の官人が一度だけ脚光を浴びた理由
- 藤原常嗣 ― 最後の遣唐使の大使を務めた官人の隠れた功績
- 藤原三守 ― ひとりの天皇に尽くした南家最後の大臣
- 紀深江 ― 大学で学び、地方官を立派に務めた官人
- 高階石河 ― 唯一の特技?美声を誇った長屋王の子孫
- 菅原清公 ― 菅原道真より優秀だった?祖父の功罪
- 笠梁麻呂 ― 不思議な一芸のおかげで出世した官人
- 伴友足 ― 実直な人柄で愛された伴氏の官人、その異例の最期
- 大野真鷹 ― 一代の天皇に尽くした軍事官僚の天晴れな人生
- 文室秋津 ― 軍事官僚として活躍した皇親氏族の意外な一面
- 藤原緒嗣 ― 桓武天皇が最も信頼した式家最後の大臣が出世した理由
- 守印 ― 才能も地位もあった僧が出世できなかった理由
- 善道真貞 ― 苦労して出世し、行政官になった学者が最後に選んだ道
- 藤原吉野 ― ただ一人の天皇を支え愛された官人の生き様
- 和気真綱 ― 最澄、空海を保護、異例の出世を遂げた官人の最期
- 良岑木連 ― 臣籍に降下した皇子のプライドと末路
- 藤原嗣宗 ― 地位が落ちても実直に勤めた藤原北家傍流の官人
本書で取り上げられている著名人の中には、小学生の歴史の教科書にも登場する人物もいれば、大学で歴史を学び日本史を専攻している者であっても着目することはほとんどないであろう人物もいる。それこそが、著者のスポットライトの公平さであり、信頼である。
今から千年以上前の人達を追いかけることで、この国に生きた人達は今に生きる我々と変わらぬ、血の通った人間であると実感するはずである。



