ポンペイ遺跡から発掘された風景画を見ると、現代絵画ではないかと思わせるリアリティを感じ取ることができる。彫刻についても発掘された塑像を見る限り、現代美術とつながるリアリティを感じる。そこにあるのは人間のそのままの姿であり、人間の住む生活の情景である。
しかし、これは古代から断絶することなく続いてきたものではない。西洋美術は一度断絶している。具体的には、軍人皇帝時代からルネサンスまでの間、古代ギリシャより始まる人間生活のリアリティが失われ、絵画や塑像に存在していたのは人間ではなく神の領域である。
それは差異であって上下関係ではない。
本書はキリスト教に基づく美術の誕生から千年間の、東西両教会の文化圏における美術を収めた一冊である。人間ではなくキリスト教の神や聖人が美術のモチーフであり、リアリティではなく神学に基づく表現が求められた。結果としてリアリティは失われたもののそれがかえってより信仰を強める美術となり、具象ではなく概念が絵画や塑像として示されることでキリスト教の教義をより深く刻み込むようになっている。




キリスト教の受難とキリスト教の勝利、そして、キリスト教の示す神の国の在り方を示す美術がここにはある。



