「〈叱る依存〉がとまらない」(紀伊國屋書店)や「「叱れば人は育つ」は幻想」(PHP新書)で、叱ること、叱られることの現実を書き記してきた臨床心理士の村中直人氏が、スポーツの世界における叱ることの無意味さと叱られることのマイナスについて、スポーツライターの大利実氏とともに著した一冊である。
スポーツの世界は、叱る、叱られるという関係が起こりやすい環境である。そして、かつて叱られた人が生存者バイアスとして叱られることの意義を語り、叱ることで結果を出してきたと考えている人が自己の実績を以て叱ることの正しさを語りやすい。
一方、現在のスポーツ界では叱ることが減ってきている。本書で取り上げている事例でも叱ることのデメリットと叱られることのマイナスが余すことなく記されており、現場でも叱ること、叱られることが減ってきていることが示されている。
その上で思い浮かべていただきたいことがある。それは、世界大会での成績。たとえばオリンピックでの日本の金メダル獲得数やサッカーW杯での実績を思い浮かべていただきたい。競技数が増えている、参加枠が増えているという点も無視できないが、かつてのオリンピックでは日本選手の1大会での金メダル獲得数が一桁であったのに対し、現在では二桁も珍しくなり、パリ五輪では20個を数えた。また、サッカーW杯もかつてはアジアを突破して本戦に出場することが夢であったのに、現在ではアジア予選突破ではなく本戦での結果が求められるまでになっている。
少なくとも、国境を越えた舞台という結果だけで捉えるならば、叱ること、叱られることが当たり前というかつてのやり方は、成功ではないと言うしかない。



