著者自身による本書の内容は「大学で『日本史』という講義を受け持つことになった研究者であれば知っておかなければならない日本史」である。近現代史を専攻しているので中世史は知らないというのは通用しないというのが、本書p.9~p.10に記した著者自身の前書きである。
本書は平安時代末期から戦国時代末期までの日本の歴史の流れについてまとめてある本で、このようにまとめた新書は珍しくない。鎌倉殿の13人や太平記などの大河ドラマ、あるいは逃げ上手の若君の大ブームなどの影響もあり、類似のテーマの書籍は多数誕生している。しかし、本書はかなり特殊である。私事ながら文学部史学科出身である私から見てもかなり斬新な切り口である。
戦前の皇国史観に親しんだ人にとっても、戦後のマルクス主義史観に親しんだ人にとっても、簡単に受け入れることのできない、しかし、歴史を学ぶにおいて欠かせない概念を埋めている書籍である。
想像していただきたい。現在に至るまでどうして日本の歴史に皇室が存続し続けているのか? これが中国大陸をはじめとする他国であれば、国家最高権力者が新たな帝位に就く。しかし、日本の歴史にそのような概念は無い。藤原摂関家も、幕府も、天皇については手を付けていない。天皇の存在を前提とした新たな政治体制を構築している。
それでいて南北朝の分断が起こっている。持明院統も大覚寺統も正当な皇位継承権を主張し、南北朝の争いが北朝の勝利に終わった後も論争は続いた。それこそ帝国議会で論争を呼ぶまでに至った。いったいこれは何なのか?
皇室に対する感情は多々あることは認める。中には「天皇制」というフレーズで論じる人がいることも理解している。しかし、その感情で歴史を正しく把握できるとは言い切れない。その時代に生きている人がどのように考えてどのように生きていたかを考えたとき、その時代の現実に接する必要がある。
本書はその接し方に対するアプローチを作りだしてくれる一冊である。