いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

近藤絢子著「就職氷河期世代:データで読み解く所得・家族形成・格差」(中公新書)

就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書)

私は団塊ジュニア世代の就職氷河期世代である。つまり、就職氷河期世代のうちの前半世代である。もっとも、両親は戦前生まれなので、文字通りの団塊ジュニア世代というわけではない。

本書は我々就職氷河期世代が直面した惨事、現在進行形で受けている仕打ち、そして、これから迎えることとなる悲劇について、十分とは言えないにしてもデータに基づいて分析した一冊である。

我々世代はどれだけ苦しみを訴えても「就職できなかったなんて自己責任だろ」「そこまで不満があるなら自分でどうにかしたら良かったじゃないか」「だいたい、何の行動もしてないじゃないか」という言葉で切り捨てられ、上の世代の奴隷となって生き延びるか、奴隷にもなれずに野垂れ死ぬかのどちらかしか選択肢が示されなかった世代である。数年前に生まれていれば体験する必要の無かった激しい競争を体験せざるを得なくなり、競争に勝ったならば味わえたはずの豊かな暮らしを目の前で破棄させられた世代である。しかも、そのときの切り捨てられかたが現在でも尾を引いている。

収入や資産といったわかりやすい指標で見る限り、我々世代の上位にいる人は前の世代と同じ恩恵を受けている者もいる。しかし、平均は低く、中央値はもっと低い。底が抜けてしまっているのだ。そのまま歳月を重ね、時間を奪われ、自らの生活を見直して建て直す機会すら手にできず、年齢を重ねてしまっている。ここに自己責任などというふざけた単語の入る余地は、無い。

たしかに本書に記されているのはイメージで語られている内容ほど酷くはないというデータである。それこそ些事とすら捉えられる差である。しかし、実体験している側からすると、本来なら向上していなければならないのが現状維持に留めさせられ、しかも、前の世代の現状維持のために損害を一方的に押しつけられ続けてきたことを意味してもいる。酷くはないように見えるというのは夥しい犠牲の上で構築された現状維持の結果なのだ。それも、上の世代のための。

氷河期世代の復讐が始まるとき、その矛先は下の世代ではなく上の世代に向くであろう。