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沢田勲著「匈奴:古代遊牧国家の興亡〔新訂版〕」(東方書店)

匈奴: 古代遊牧国家の興亡〔新訂版〕(東方選書48)

昨日は契丹国(=遼)を解説する書籍を紹介したが、本日は、契丹以上に日本と関係性の薄い、それでいてユーラシア大陸の歴史において契丹以上に強い影響をもたらした国家、匈奴についての解説書である。

rtokunagi.hateblo.jp

日本人が、あるいは日本史が匈奴をほとんど取り上げないのは、匈奴が日本との接点をほとんど持たなかったからにすぎない。世界史を、あるいは、ユーラシア大陸のどこかの国の歴史を学ぶならば、匈奴が与えた影響は絶対に無視できるものではないし、多少なりとも匈奴を学ばねばならない。それは古代ローマ帝国も例外ではない。

紀元前4世紀にモンゴルあたりの地域に誕生した匈奴は、幾度となく中国大陸の王朝への侵攻を試みた。前漢匈奴と対するにあたって抵抗を諦めて和睦を選び、匈奴に対する朝貢国へと成り下がった。匈奴はその後も勢力を拡げるも統一国家としての体裁を維持はできず、複数に分裂することとなった。

分裂したそれぞれの匈奴は周囲への侵略を止めることはなく、侵略を受けた存在の一つがフン族ローマ帝国滅亡の一翼を担った、あのフン族である。フン族匈奴の侵略を受け、押し出されるように西へと自らの生活権を移動させ、ゲルマン民族を西に追いやり、ゲルマン民族ローマ帝国に侵略していった。その後もフン族は周囲への影響を保ち続け、すくなくとも紀元後6世紀初頭までは匈奴が世界史に君臨していたことは確認できている。ちなみに、現在のハンガリーフン族の後継であるとされているが、そのあたりは否定する説もあるのでこれ以上は深入りしないでおく。

さて、その匈奴であるが、匈奴は何もローマ帝国滅亡を民族の目標としていたわけではない。遊牧民としてその日その日を生きていったことの積み重ねが、勢力の強大化を生み、統一の瓦解と分裂、周辺への圧力を生みだしたのである。その圧力を受ける側は、東では国家の危機を招き、西では国家の滅亡を招いた。

その匈奴は、気づいたら消滅していた。と言っても、跡形も無く消えたのではない。匈奴という国家アイデンティティ、民族アイデンティティが喪失したが、その地域に存在する遊牧民集団は存在し続け、その後もユーラシア大陸の中央部に君臨し続けるのである。