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榎村寛之著「女たちの平安後期:紫式部から源平までの200年」(中公新書)

女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年 (中公新書)

 

本書は同著者の「謎の平安前期:桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」(中公新書)の続編であり、前作と同様、平安時代を解説するという点で平安時代叢書の次に優れた書籍である。

rtokunagi.hateblo.jp

 

その平安時代叢書を書いている自分が言っていいことではないが、平安時代は古代なのか、それとも中世なのか、そのように考えると明瞭な答えは出てこない。平安時代の四百年のうち、スタートから前半二百年は、間違いなく法が現実の上に立つ中央集権国家である古代である。一方、後半二百年は法ではなく現実が上に立つ地方分権の中世である。

ここまではいい。

ここに女性が手にできていた権利という視点を加えると、マルクスの段階発展論が完全に否定される。古代であればあるほど女性が行使できた権利が強くなり、時代が経るに伴って女性の行使できた権利が減っていく。政治的権利、経済的権利、社会的権利が減っていき、平安時代末期となると恋愛的権利すら減っていく。源氏物語光源氏と数多くの女性との恋愛遍歴を描いた小説であるが、同時代の現実はむしろ女性が男性を選び、女性に選ばれる男性になることで女性の親の持つ地位に基づく未来を手にできる。それが、院政期になると男性が男性を選ぶ時代となる。男性同性愛が当たり前になり、有力者の娘との交際ではなく有力者自身との交際によって男性が権力を手にする時代を迎える。その結果、女性は恋愛対象ではなく、権力を有する人格とすら理解されず、子を産む機械とすら扱われる。

数少ない例外が皇族や上級貴族の女性で、彼女達は資産ならば手にできた。女院号を得ることに成功した女性達や鎌倉幕府草創期の北条政子といった例は無数に挙げることもできる。しかし、彼女達の行使できた権力のうち公式に基づく権力となると、奈良時代の女性が手にできていた権力より少ないとするしかないのが実情だ。

ただし、公的には、という条件が付く。

平安時代叢書の次に平安時代の全容をまとめ上げた著作である本書を読むことで、実利と権利についての別の姿が見えてくるはずである。

 

第一集
784年~810年 安殿親王と薬子 相関図
第二集
810年~826年 北家起つ ~藤原冬嗣の苦悩~
第三集
826年~843年 中納言良房 相関図
839年~840年
中納言良房 外伝  あこな
第四集
843年~866年 応天門燃ゆ 相関図
861年~863年
応天門燃ゆ 外伝  山崎の踊り娘
第五集
866年~882年 摂政基経
第六集
883年~909年 左大臣時平
第七集
909年~949年 貞信公忠平 相関図
第八集
949年~970年 天暦之治 相関図
第九集
970年~990年 戦乱無き混迷
第十集
990年~1016年 源氏物語の時代相関図
第十一集
1016年~1031年 欠けたる望月
第十二集
1031年~1064年 末法之世
第十三集
1064年~1099年 次に来るもの
第十四集
1099年~1127年 天下三不如意
第十五集
1127年~1156年 鳥羽院の時代
第十六集
1156年~1179年 平家起つ ~平家ニ非ズンバ人ニ非ズ~
第十七集
1179年~1185年 平家物語の時代 ~驕ル平家ハ久シカラズ~
第十八集
1185年~1192年 覇者の啓蟄 ~鎌倉幕府草創前夜~
第十九集
1192年~1203年 剣の形代(つるぎのかたしろ)
第二十集
1203年~1221年 承久之乱