いささめに読書記録をひとしずく

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おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ジョエル・コトキン著,寺下滝郎訳,中野剛志解説「新しい封建制がやってくる:グローバル中流階級への警告」(東洋経済新報社)

新しい封建制がやってくる―グローバル中流階級への警告

公立の小学校や中学校に通っていた人は、FacebookやLinkedinで同級生の名を検索してもらいたい。特に、高い偏差値の高校に進学した同級生がどのように暮らしているのかを調べてもらいたい。そこでわかりやすい格差を感じるはずである。公立の小学校や中学校は社会の壁を乗り越えたクラス編成が組まれるが、そのようなクラス編成など卒業後の接点は簡単に途切れる。特に社会の勝者となる者は早々に公立の繋がりから離れて、あるべき社会に身を投じることとなる。気づいたときには格差となっている。

今はこの状態であるが、この格差はこれから先もっと広がる。すなわち、最初から公立ではなく、似たような暮らしをしている子だけが集まる私立の学校に入り、学歴を重ね、外との接点を全く持たぬまま社会人となって勝ち組の暮らしを手に入れ続けることとなる。そして、勝ち組は勝ち組だけで結婚をし、子をもうけ、次世代を生み出す。勝ち組には入れなかったが勝ち組に近い位置にいる者は、結婚できない、もしくは結婚しても子供がゼロという暮らしになる。勝ち組から遠い位置にいるとそもそも貧困生活を余儀なくされることとなる。

これは何も日本だけの現象ではない。

2020年に猛威を振るいはじめたCOVID-19。それは、これまで抱えていた社会問題を露顕させる災厄でもあった。ワクチンで罹患の確率を減らすこと、罹患時の症状悪化の確率を減らすことまではできているが、完全に駆逐できたわけではない。

今に生きる我々は、After COVID-19 の世界を生きているという感覚になっている。だからか、COVID-19によって新たな問題が発生したかのように見えてくる。しかし、COVID-19は2020年という節目を示したに過ぎず、潜在化していた社会問題は遅かれ早かれ露顕化する宿命にあった。少子化、高齢化、格差の拡大などの問題は新たに発生した問題ではなく、以前から存在していた問題なのである。

しかも、人類はこの流れをはじめて体験するのではない。社会全体で年々豊かさを増しているために新たな豊かさを手に入れられるチャンスが広く用意されている時代から、社会全体の豊かさの進展が緩やかになり現時点の豊かさを維持することを優先する時代になる時代である。要は古代から中世への移行だ。古代は中央集権、中世は地方分権であるが、著者がこれから迎える時代として描いているのは企業が権力を有する地方分権の中世社会である。しかも、これは全世界の問題である。

現在日本の社会問題として挙げられる点は多々あるが、それは何も日本だけの社会問題ではない。というより、日本も含むほぼ全ての国が迎えている社会問題であり、どの国も解決に成功していない社会問題である。豊かな成功者は豊かな成功者だけが集まった区域で快適に暮らし、暮らせていける者は暮らせているが結婚もできず子供ももうけることができずに過ごしている。そして、その外には暮らせていけていない者がいて、これらの間には見えない壁が、時には見えている壁が存在する。その壁を越えるのは極めて難しい。