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志村五郎著「数学をいかに教えるか」(ちくま学芸文庫)

数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)

小学校の算数の文章題でこういうものがある。

4人います。りんごを1人に3こずつくばると、りんごはいくつになるでしょう?

これに対する答えは12個である。

一方、12個という答えを求める式は二種類ある。3×4 と 4×3 である。そのどちらも正解である……、のだが、この世界にはどういうわけか、3×4 と 4×3 のどちらか一方だけを正解とする教師がいる。多くの人が一方しか正解としない考えは間違いであるとし、両方とも正解であるとすべきとしているのに、乗算記号の前の数値を「乗数」、乗算記号の後ろの数値を「被乗数」として、その双方は別物としている者がいる。

そうした考えを全否定するのが本書である。

そもそも「乗数」だの「被乗数」だのという概念自体が不要であり、子供に教えるべきではないというのが本書の主張だ。

このようなことを書くと、懸命になって掛け算の順番にこだわる人が顔を真っ赤にして怒り心頭に発する。中には、そのような主張をする本書の著者に対し、容赦ない誹謗中傷をくりひろげることもある。酷いのになると、素人が数学に口出しするなとまで言ってくる者までいる。

ところで、数学界の難問にフェルマーの最終定理というのがある。

フェルマーの最終定理の証明は「有理数体上に定義された楕円曲線はすべてモジュラーであろう」という谷山志村予想を証明することによって成立する。そのことは1980年代までに確証を得られていたが、アンドリュー・ワイルズ教授によって実際に証明に成功したのは1994年のことである。

ここまで書いてある程度思いつくのではないであろうか?

本書の作者である志村五郎氏は、谷山志村予想の志村五郎教授である。

地球上のどこに志村五郎教授を数学の素人と呼べる人がいるであろうか?