いささめに読書記録をひとしずく

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おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ダグラス・マレー著,町田敦夫訳,中野剛志解説「西洋の自死:移民・アイデンティティ・イスラム」(東洋経済新報社)

西洋の自死―移民・アイデンティティ・イスラム

危険な本である。

本書はヨーロッパの移民問題を問題として明瞭に示した書籍であり、移民が移民先で起こしている社会問題を文字に起こしている。このことを危惧すると差別主義者と糾弾される社会であるにもかかわらず、文字にしている。

誰もが感じていることである。移民が近所に来ることはともかく、社会に溶け込むわけでなく自分達だけの社会を作りあげて、周囲の社会規範に従わずに行動する。元の社会では許されていること、あるいは法で禁止されているが黙認されていることを、それが明瞭に禁止され法による処罰を受けることを移住先でもする。窃盗、強盗、暴行、性犯罪といった問題が起こり、犯罪集団が社会に跋扈するという環境を生みだし、それが治安の悪化を招く。

本音では元の国に戻って欲しいと願っているが、元の国に戻すとなると大問題が立ちはだかる。好き好んで移民となるのではない。元の国で暮らしていけないから豊かな国へ、移民を受け入れてくれる国へ移動するのだ。これでようやく手に入れた安心できる暮らしを捨てなければならないというのは猛反発を招く。その反発に人権を考える人が同調し、移民排斥は差別であるという社会を作りあげる。

さらにここに、移民を受け入れる側の社会問題が存在する。日常生活で移民と接する割合が高く、同時に移民の迷惑をダイレクトに体験している人だけでなく、移民排斥に積極的に動く人が多数登場する。移民排斥を訴える集団の割合で言うと後者の方が圧倒的に多い。そして、圧倒的に多い後者というのは社会の敗者なのだ。自らが社会で生きていくにおいて敗北者であり、自らが誰からも見向きされることなく、現在進行形で見捨てられている。というタイミングで移民という、彼らに言わせれば明らかに下に見ている集団があり、その下に見ている集団が自分達を追い越しているという感情が加わる。本書には記されていないが、昨日紹介した「新しい封建制がやってくる」で記した格差の拡大と社会階層の固定化による社会的敗者の鬱屈した感情において、移民というのは理論ではどうにもならない感情が存在する。

rtokunagi.hateblo.jp

日本も例外ではいられない。移民問題もさることながら、移民排斥問題も無視できない話である。思い浮かべていただきたい。沖縄の米軍基地前で繰り広げられている基地反対集団の愚行を。現代日本における最悪の移民排斥運動の愚行はあれだ。今のところは無能無知の高齢者の自己憐憫に留まっているが、それですら、言葉の暴力だけでなく、無関係であるはずの警備員を殺して平然としている暴力性を持っている。

あれがさらに拡大して矛先が米軍基地以外にも向いたらどうなるか?

彼らの排他性と暴力性を放置していては、移民問題はともかく、移民排斥問題は確実に悪化する。彼ら“リベラル”は日本最大の差別主義団体であることを見過ごしてはならない。