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塩野七生著「ローマ人の物語Ⅴ:ユリウス・カエサル ルビコン以後」(新潮社)

ユリウス・カエサル ルビコン以後──ローマ人の物語[電子版]V

ガリア戦役を完全に制圧してローマ北方のガリア人問題を根底から解決したカエサルは、救国の英雄ではなく国家の敵と元老院から扱われるが、カエサルガリア戦役の軍勢をそのまま率いてイタリアに進軍。元老院議員達はローマを捨ててギリシャに逃れ、三頭政治カエサルと手を組んでいたポンペイウスと、カエサルの政界デビューから常にカエサルの右腕であり続けてきたラビエヌスを自派に引き入れ、軍勢を整えてカエサルの軍勢に向かい合う。元老院議員達はカエサルの破滅を確信するが、破滅を迎えたのは元老院議員達のほうであった。ある者は戦場に散り、ある者は戦場から逃れ、ある者はカエサルの前に跪いた。三頭政治カエサルの盟友であったポンペイウスは、生きてカエサルと再会することなく、カエサルポンペイウスとの再会に至るまでの経緯を、ガリア戦記に並ぶカエサルの名作「内乱記(COMMENTARII DE BELLO CIVILI)」としてまとめて刊行することとなる。

元老院議員達に勝利したカエサルは、ポンペイウスの逃走先であるエジプトを含む地中海世界の各地を平定し、ラビエヌスをはじめとする残党を制圧してローマに凱旋し、名実ともにローマの独裁者となった。しかし、カエサルが迎えた運命は、栄光ではなく暗殺であった。3月15日と日付を記すだけで何の日かわかる紀元前44年の大事件である。カエサルの独裁に反対していた者はこれで共和制が蘇るかと考えたが、待っていたのはカエサルの後継者、後のアウグストゥスことオクタヴィアヌスの登場であった。このときオクタヴィアヌス、17歳。

オクタヴィアヌスのことを名しか持っていない若者とキケロは断じたが、オクタヴィアヌスキケロの想像を超える名政治家であった。オクタヴィアヌスは政敵を一人ずつ打倒し、途中まで第二次三頭政治の盟友であったアントニウスも、そして、カエサル最後の恋人でローマ最後の敵となっていたクレオパトラも倒し、24歳の若者がローマの頂点に君臨することとなった。