今年の大河ドラマ、光る君へ。その最終回は紫式部ことまひろが武者となった双寿丸が東国で起こった戦乱に向かうのを見届けつつ、「道長様、嵐が来るわ……」とつぶやいて終わった。
ドラマで直接描かれてはいないが、藤原道長の時代はたしかに戦乱がなかったものの、50年前は平将門と藤原純友が内乱を起こし、藤原道長の死後半年には房総半島で平忠常の乱が発生している。双寿丸が向かった東国の戦乱とは、この平忠常の乱である。
平安時代は光る君への世界の終わりからおよそ200年続く。教科書的に記すとその200年間で武士が徐々に力をつけてきて、武士の二大巨頭たる源氏と平氏が台頭して、まずは平氏が、次いで源氏が権力を手にする、ということになっている。
しかし、光る君への世界の前に平将門の反乱があったことからもわかるように、また、藤原道長のはいかにはすでに源氏の武士がいたことからもわかるように、源氏も平氏も武士としてとっくに台頭してきているのである。時代の主眼が置かれていないというだけで、その勢力は無視できるものではなくなっていたのだ。
さらに着目すべきは、「受領は倒るるところの土を掴め」というフレーズや、尾張国郡司百姓等下文といった国司の専横である。国司が専横するようになったのではなく、専横できるようになったのだ。平安時代の途中まで国司に逆らうことのできる軍事力が地方に存在しており、それらの存在は平気で中央から派遣されてきた国司に逆らっていた。国司は彼らと真正面から向かい合って令制国内の治安を安定させて徴税しなければならないという命がけの職務であり、専横できるようになるのは国司のほうに地方の軍事力を凌駕する軍事力が手に入ってからである。それこそが、源氏と平氏であった。時代を手にしてきた藤原氏ですら、それも平将門を討ち取った藤原秀郷や反乱の当事者たる藤原純友といった人材を輩出した藤原氏ですら、こと軍事力となると源氏や平氏には勝てなかったのである。
本書はいかにして源氏と平氏が軍事力を手にしてきたか、そして、この両家系がどのような違いを持って歴史に名を見せ権勢を手にするようになったかをまとめた一冊である。紋切り型の平安時代についての叙述ではなく、より幅広い平安時代の実相を知るのに有意となる一冊である。