全世界で話題になった「資本とイデオロギー」のコミカライズである。
コミカライズとは言うが、現在の日本の書店のコミック売り場のコーナーで売っているようなコミックではなく、昭和時代の終わり頃に小学生であった人が読んだであろう「○○のひみつ」や「△△のふしぎ」といったマンガのような体裁のマンガである。そのため、おそらく団塊ジュニア世代の者が本作を読んだら、どことなく懐かしい思いを抱くであろう。
本作は「資本とイデオロギー」を原作とした漫画であるが、フランス革命から現在にかけてのフランスを中心とする世界経済の構造の推移を描いている。奴隷制に対するスタンスでもあくまでもフランスが舞台であり、アメリカの南北戦争に関連する奴隷制廃止については伝聞という形式になっている。もっとも、フランスにおける奴隷制廃止とアメリカにおける奴隷解放との対比で、奴隷所有者の資産保全を勤めたフランスと、奴隷制廃止により奴隷主の資産破綻を強行したアメリカという対比が描かれている。すなわち、格差という側面で言えば途中までアメリカのほうが格差を縮める経済政策を採っていた。
それが、第一次大戦によって逆転し、第二次大戦後には完全に固定化した。格差はむしろヨーロッパのほうが少なくアメリカの格差は強大な物となっている。ちなみに、本書では日本に対する記述が二ヶ所のみ存在しているが、そのうちの一回は第二次大戦後の資産税導入についての記載である。
第二次大戦から冷戦終結に至るまでの西側諸国の経済情勢は悪いモノでは無かったと言える。特に格差という点で言えば、廃墟からの復興のために国民に極めて重い負担を課したことの残滓もあって、格差はそれほど大きな物ではなかった。それが終わりを迎えたのは、西暦で記すならば冷戦崩壊時であるが、人間のライフサイクルを考えると世代交代のタイミングである。第二次大戦の終結と復興は人を豊かにしていった。その豊かさを次世代に引き渡すときに、築き上げた格差がそのまま次世代の格差となり、拡大していった。
その世代のサイクルがさらにもう一度移ってきている。まるで古代日本の蔭位の制よろしく、格差はそのまま増幅して次世代の構築となる。
果たして、これでいいのか。
その問いに対する回答は本書巻末に掲載されている。ただし、その回答が正しいかどうかとなると疑念が生じるとも言える。このあたりは私が歴史を学び、平安時代叢書として平安時代の歴史小説を書いていることの影響もあるであろう。学んできた中で失敗例として挙がっていることの繰り返しでもあるのだから。