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本郷恵子著「買い物の日本史」(角川ソフィア文庫)

買い物の日本史 (角川ソフィア文庫)

買い物をしない人はいない、というのは現代人の概念であって、買い物と無縁だという人は歴史上珍しくない。

日本の歴史で捉えると、買い物をできる場所自体が常設であるというのは平城京平安京といった首都をはじめとする大都市に限られた話であり、通常は月に数回もしくは非定期に開催される市(いち)が売買の場であった。市は集落の中で開催されるとは限らず、集落から市の開催地まで出向いて売買することも珍しくなかった。これを商人の立場に立つと、一日はA村での市、二日はB村での市、三日は……、という感じに渡り歩くことになる。市そのものの集客数は少なくても市を巡り歩くことで顧客を増やすので、商人としては合理的な行動であると言える。ただし、売り物が日持ちするモノであるならば。

本書は、日本国における買い物の推移について、現在の我々が想像するような市(マーケット)での日常品の購入から、現在の我々では想像は付いても違法だとする認識を伴う朝廷官位の購入といった古代日本人の購買行動にはじまり、中世日本における経済感覚や経済秩序、武士たちの間での経済認識とその延長線上にある官位売買、そして、これは日本だけの現象ではなく世界的に広く見られたことであるが、宗教団体と金融との関係をまとめている書籍である。

それは同時に、現代の我々の考える「買い物」というものが経済に対する倫理観の向上を伴って醸成されてきた概念であることを思い知らされる書籍でもある。