フランシス・フクヤマと言えば、1992年の大ベストセラー『歴史の終わり』が思い浮かぶ。しかし、世界はその通りになったわけではない。そのことについての批判の声、疑念の声が投げかけられていることは著者自身が認めている。
本書は著者が記した、疑念と批判に対する回答の書籍である。
著者は本書に於いて、現代政治におけるアイデンティティの役割について提示し、ポピュリストのナショナリズムから左派のアイデンティティ政治に至るまで、自分のアイデンティティを認めてほしいという要求が現代の政治運動の根本的な原動力になっていると主張しているのである。
プラトン、ヘーゲル、コジェーヴなどの思想家を引きながら、アイデンティティ概念の哲学的歴史をたどり、承認と尊敬を切望する魂の一部である「テューモス」が、平等や優越の要求として現れているとするのだ。
その上で、アイデンティティの問題が多くの政治的議論の最前線にあるとし、今日の政治情勢においてポピュリスト的指導者や運動が台頭し、多くの民主主義国で二極化が進んでいることを説明している。たとえば本書の目次を見ていただきたい。
今日の政治状況を形成している深い力を理解することに興味があるなら、本書は間違いなく一読の価値がある。