1930年にジョン・メイナード・ケインズは予言した。技術の進歩によって労働時間が短縮されるはずであると。たしかに人類の歴史を振り返ってみると、そもそも労働時間はそこまで長くないことのほうが多い。平安時代叢書を書いていて感じるうちの一つに、平安時代の農民の平均労働時間が1日4時間ほどであったという点がある。それが時代とともに伸びてきて、8時間を越え、10時間を越え、12時間を越えるという時代を迎えたときにケインズは未来の労働時間短縮を予言したのである。
ケインズの予言は外れた。労働時間は8時間というのが基準であり続けている。
どうして今に生きる我々はかつてないほど忙しくなっているように見えるのか?
本書はこの疑問に向かい合った一冊であり、本書の著者は「でたらめな仕事」の蔓延に答えを見いだしている。すなわち、無くなったところで世界に何の変化ももたらさない仕事を検証し、管理職、事務職、販売職、サービス業などの多くの仕事がは経済合理的なものではなく、むしろ政治的な目的にかなったものであることを考察した上で、こうした「でたらめな仕事」が理由となっているのだと指摘する。
この本を読む限りではあるが、もしかしたら、欠かせない仕事であればあるほど待遇が悪いのに対し、故デヴィッド・グレーバー氏がブルシット・ジョブと名付けた仕事だと好待遇になるのかもしれない。失業率を下げるために生み出される仕事、体面のために生み出される仕事、社会に欠かせないと自他共に認めるような仕事に就くことが学歴社会の勝者なのか……