岩波文庫はときおり復刻重版する。私が本書を手に取ったのも、"THE IRISH"(Sean O'Faolain)の邦訳版復刻重版であり、元々の邦訳版は1997年に刊行されている。
現在に生きる我々は、アイルランドをイギリスの西にある島国であると考える。もう少し詳しい人は、北部の一部がイギリスを構成する北アイルランドであり、残る大部分が国家としてのアイルランドであると考える。サッカーなどでは北アイルランドとアイルランドが別々の国である一方、ラグビーでは北アイルランドも含むアイルランドという一つのチームとして出場していることを知っている人もいよう。
それにしても、どうしてこのような複雑な構造が成立しているのか?
本書は1949年に出版されたアイルランド文化史の本である。20世紀初頭のアイルランド文学ルネサンスに刺激され、アイルランド文化への関心が再び高まったことを反映して著された一冊であり、著者のオフェイロンも第一次大戦末期から始まったアイルランド反乱期に反英活動に参加し、コーク・エグザミナー紙の検閲官やIRAの宣伝部長を務めた一方、1920年代に小説を著しはじめてから60年間で90編を完成させた文学者でもある。
そのオフェイロンが著した本書は、連合王国最初の植民地となったアイルランドの誇りと自由を取り戻すために著した一冊である。しかし、それは単にアイルランドを称賛し、鼓舞し、奮い立たせる一冊ではない。アイルランド民族主義に疑問を呈し、アイルランドのローマ・カトリックの欠点、すなわち教会による検閲やアイルランド人聖職者の狭量さを非難し、さらには制限的な家族の伝統についても筆致を向けている一冊である。
アイルランドの文化とアイデンティティに対する洞察を著した本書は多くの批難の声を向けられた一冊でもある。しかし、本書を読むことでアイルランドが迎えた歴史、運命、そして現在まで続く現実を目の当たりにすることとなるであろう。