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篠川賢著「国造:大和政権と地方豪族」(中公新書)

国造―大和政権と地方豪族 (中公新書)

大和朝廷が日本列島を統一して国家を成立させるにあたって、奇妙な光景が存在している。

記紀の記載に伝承として一応は存在するのだが、統一に向かう過程での本格的な戦乱となると、東北地方と九州南部しか記録に残っていない。たとえば高句麗百済新羅といった国々が林立していたの朝鮮半島のように複数の国家が並立して戦乱を繰り広げたという光景が存在しない。

しかし、日本列島の文明の開始から大和朝廷が日本列島全土を制圧していたわけではない。日本列島各地に存在していた地方豪族が何らかの形で大和朝廷のもとに降ったはずである。そうでなければ、大和時代飛鳥時代奈良時代、さらにはそれ以降の時代における地方の有力者の存在が説明できない。

そのヒントとなるのが本書である。

システムとして、大和朝廷は地方の統治のために「国造(くにのみやつこ)」を置いたことは記録に残っている。同じ地方統治でも後の「国司」となると中央からの派遣であり、かつ、任命された者と赴任先との関係は何ら関係ないが、一方で本書で取り上げる「国造」は本質的に地方の有力者をそのまま任命するものとなっている。つまり、大和朝廷が地方の有力者の権威を認め大和朝廷の権力に組み入れたことがわかるのである。

その「国造」がどのようなものであったか、どのような権威を手にして地方に君臨していたか、そして、律令における「国司」へとどのように推移していったかが本書でわかるようになっている。

その上で、なぜ朝廷は日本列島に統一国家を成立させることができたのかを知ることができるはずである。