德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

橘木俊詔著「老老格差」(青土社)

老老格差

人間誰しも生きていれば老いた身となる。

老いた後に迎える運命はそれまで積み重ねてきた人生の帰結である。

良かれ悪しかれ各社社会である現在の日本に於いて、高齢者が直面しているのもまた格差問題であり、現役世代がこれから迎えることとなるのもまた格差問題である。

具体的には、資産の格差、社会的つながりの格差、健康と医療の格差、住まいとする土地に由来する格差が存在している。現時点で存在しているし、今後も存在することとなる。いや、今後は今より悪化する。

現在の高齢者の直面している問題は、高齢者だけではなく、その高齢者を支える人、多くはその高齢者の家族の問題でもある。特に介護が必要となった場合、自宅で介護をするということは介護をする人に失業を命じるのと同じである。これは私の実体験であるが、親の通院の付き添いや入院時の呼び出し、そして、退院時に言われた自宅での介護要件を全てこなすのは、働きながらでは絶対に不可能である。これはリモートワークであったとしても例外ではない。死なせないための介護をするには失業しなければならず、介護の終わり、すなわち要介護者の死後に待っているのは一昔前のスキルしか身に付いていない失業者である。

そうさせないためには家族に介護をさせないことが絶対に必要であるが、そのための資産をどうするのかという問題もある。公的サービスでの施設入所は順番待ち、資産があればどうにかなる施設への入所となると数千万円単位の出費となる。高齢者自身が蓄財した結果を払うならまだいいが、その資産を家族に出させるとなったなら、これもまた、家族の将来が破壊されることとなる。少なくとも、最低でも一人の子どもの妊娠・出産を諦めなければならなくなる。この社会を支えるどころか余計な荷物出しなか無くなっている厄介な存在を数年間生かすために、将来のこの社会を支えることとなる人間をこの世に誕生させなくさせることとなる。

さらに、こうした高齢者が犯罪者や犯罪被害者になることもある。無謀な運転をして人を殺すこともあるし、無謀な飛び出しでドライバーを殺人犯にさせてしまうこともある。詐欺や宗教、悪徳商法に引っかかってそれまで溜め込んでいた資産を全て失うこともあるし、老いてもなお体力があり、それでいて痴呆症が進行しているというケースでは家族が暴力の被害者になることもある。

この問題を解決する方法はあるのか?

最低でも、未成年者とその保護者、ならびに勤労者には介護をさせず、介護は介護を専門職とする人に専任させることが必要である。その上で、介護を職業とする人には日本国民の平均年収の2倍から3倍の年収を支払うことである。その金額を払うのは行政と高齢者自身であり、要介護者の子や孫をはじめとする介護者の家族は、1円たりとも、1秒たりとも負担させない。

これは夢物語かもしれないし、このようなことは本書に記されているわけではない。本書に記されているのは徹頭徹尾、老いに伴う格差の現実と、現状のままで迎えることとなる未来である。

その上で記すが、本書に記されている老後の格差問題を考えたとき、その夢物語を結実させてようやく、この国の社会は現状維持を果たすことができる。できなければ衰退していくのみだ。