德薙零己の読書記録

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吉村武彦・吉川真司・川尻秋生編「古代荘園:奈良時代以前からの歴史を探る」(岩波書店)

古代荘園──奈良時代以前からの歴史を探る (シリーズ 古代史をひらくⅡ)

平安時代を語るのに荘園は欠かせない。鎌倉時代も、南北朝時代も、室町、戦国、安土桃山時代も荘園は欠かせない。

一方、奈良時代以前の歴史を語るのに荘園という概念は存在しない。

つまり、一般的な荘園についての概念とは、平安時代に誕生し、平安時代400年の過程で発展して日本中に展開されるようになったというものである。鎌倉時代以降の荘園は平安時代に誕生した荘園の継承であり、個々の荘園の推移はあっても、荘園制度全体は平安時代に確立したとするのが一般的だ。

しかし、本書はそうした概念を破壊する。

それも、素朴な問いから旧来の概念を破壊する。

大和朝廷の時代には既に存続していた地方豪族が、果たしてその所領を大人しく手放していたであろうか? 

そもそも桓武天皇平城京から新しい都へと遷都することを決めた理由のうちの一つが、奈良盆地に存続し続けた在地勢力からの影響を排除することである。難波京大津京といった時期はあったものの、大和国大和朝廷時代から日本国の中心であり続けており、大和国の中で首都を変更させたところで大和国に根拠地を構え続ける豪族達の影響を排除できない。

ここでさらに班田収受による公地公民制の導入の例外規定に目を向けると、在地の豪族達は合法的にこれまで手にしていた所領をそのまま自領として保持し続けることができていたのである。

さらに大和国以外にも、さらには畿内に留まらず五畿七道全国各地に有力豪族がいて、勢力の源泉となっている所領が存在し、それらの所領を合法的に自領とすることに成功していた。

とは言え、やはり桓武天皇平安京への遷都は従来の勢力を弱めるという効果はあった。しかし、従来の勢力が弱まった代わりに新たな勢力が誕生した。藤原氏の勢力は壮大なものとなり、各地では武士が勃興していった。そこはつながっていたのだ。

荘園は平安時代に新たに誕生した存在ではなく、古代から存続し続けていたことを本書は示している。