德薙零己の読書記録

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山田徹,谷口雄太,木下竜馬,川口成人著「鎌倉幕府と室町幕府:最新研究でわかった実像」(光文社新書)

鎌倉幕府と室町幕府~最新研究でわかった実像~ (光文社新書)

7月からアニメ放送が始まった逃げ上手の若君。この作品は鎌倉幕府滅亡後に行方をくらました北条時行を描いた作品である。かの作品のネタバレになってしまうのをどんなに気をつけようと、北条時行の時代そのものは歴史の教科書に記されているので、歴史の教科書を開くだけで勝手にネタバレになってしまう。

さて、その北条時行の時代であるが、歴史の教科書に従うと、鎌倉幕府滅亡→建武の新政室町幕府という流れになるのだが、実情はそんなに簡単ではない。というより、歴史の教科書に載せることのできるスペースでは描ききれない交錯が存在しているのがこの時代なのだ。

本書は北条時行の時代を軸に、鎌倉幕府室町幕府の双方の最新研究をまとめ、二つの幕府の実像を明らかにしている一冊であり、鎌倉幕府が滅亡したのは偶然が重なり合った結果であること、そして、室町幕府応仁の乱ののちも強く存在感を発揮し続けていたことを明記している。すなわち、本書刊行時点における最新の研究成果をわかりやすく記している一冊であり、北条時行の時代の解釈もその延長線上で可能となるのだ。

また、巻末には新進気鋭の中世史研究者たちが、それら最新の学説をまとめて二つの幕府の実像を明らかにするとともに、どちらの幕府が強かったかを議論する座談会も収録している。これはなかなかに面白い試みと言えよう。