德薙零己の読書記録

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フランクリン・アレン&グレン・ヤーゴ著,空閑裕美子訳「金融は人類に何をもたらしたか:古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで」(東洋経済新報社)

金融は人類に何をもたらしたか―古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで

想像していただきたい。金融の無い社会を。

金貸しが無くなるのだから借金の取り立てもなくなるというのは早計に過ぎる。金を借りることができなくなると、自分の資産で買えるモノやサービスしか買えなくなる。家も、クルマも買えなくなる。

さらにこれは個人ではなく法人となると、事業ができなくなる。倒産するというレベルでは無く、そもそも起業自体ができなくなる。いったいどれだけの人が失業することとなるのか、どれだけの生活が壊れるのか。

金融があるからこそ人は自分の財力を超えるモノやサービスを手に入れることができ、自らの資産を超える事業を興すことができ、結果を出して社会を向上させることができる。その根拠が本書にある。

本書は金融の歴史とその社会への影響についての包括的な探求であり、古代文明の金融革新から現代にいたるまで、さらには未来へと論述する一冊である。金融史の広範な概観と主要な革新とその意味を強調し、社会における金融の役割を理解するための貴重なリソースを構築している。

本書の強みの一つとして、一般の読者にもアクセスしやすい方法で複雑な金融概念を説明する点が挙げられる。それが叙述に歴史を利用することのメリットである。歴史を絡ませることによって難しいトピックを理解しやすくできる。それこそ古代メソポタミアとエジプトの硬貨の開発から、現代の銀行システムの出現、デジタル通貨の台頭まで、数多くの例を提供しているのがその例である。