德薙零己の読書記録

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小島寛之著「世界は素数でできている(角川新書)」

素数については素数に詳しい方々や素数を追い求めることが好きな方々が多々述べられると思うので、ここは私の感想。
人類はその歴史の中で、差別によってどれだけの才能を埋没させてしまったきたことか。
「欧米の白人男性でない」という一点だけが理由で研究の舞台に加わることができなかった人はいったいどれだけいたのだろうか?
そして、現在進行形で加われないでいる人も。

世界は素数でできている (角川新書)

 

ここに本書に挙げられている一例を記す。

18世紀のフランスにソフィ・ジェルマンという数学者がいた。
素数を探求してきた数学者は歴史上数多くおり、ソフィ・ジェルマンもそうした数学者のうちの一人であり、現在のRSA暗号などの暗号化技術にも利用される安全素数の研究をした。

ソフィ・ジェルマンはもともとフェルマーの最終定理を研究していた。
その途中で、以下の条件を満たす素数を考えついた。

2p+1 が素数である素数 p

たとえば p が 5 のとき 2p + 1 すなわち 11 も素数となる。

ソフィ・ジェルマンはこうした素数を nombre premier sûr 、日本語で「安全素数」と名付け、数学者はソフィ・ジェルマンの功績を称えるため、安全素数における p を「ソフィ・ジェルマン素数」と呼ぶようになった。


以上、安全素数を提唱したソフィ・ジェルマンついて記したが、ここまで読んだ方はソフィ・ジェルマンをどのような人物として思い浮かべたであろうか?

一行目にフランスの数学者であることを記したからフランス人数学者と考えたであろう。
そして、こう考えたのではないだろうか?

男性であると。

実は、ソフィ・ジェルマンは女性である。
13歳のときにアルキメデスの本を読んで数学に目覚めた彼女を当時の社会風潮は許さなかった。「女性は数学など勉強するべきではない」という社会風潮である。彼女の両親はどうにかして娘を数学から引き離そうとしたが、彼女は数学の研究を諦めることなく、フランス最高の工科大学であるエコール・ポリテクニクに入学しようとするも女性であるという理由だけで受験そのものが許されず、彼女はやむをえず、エコール・ポリテクニクに通う学生と知り合いになって講義ノートを見せてもらって独学で数学を勉強した。

当時のエコール・ポリテクニクには数学者ラグランジュがいた。ラグランジュは学生に対して宿題を出すと、提出される宿題が受講生の数よりいつも一通多いことに気づき、その多い一通が女性であるためにエコール・ポリテクニクへの受験すらできずにいる人物であることを知って彼女との共同研究を始めることにした。

数学界にデビューすることとなったソフィ・ジェルマンはドイツの数学者ガウスとの文通も始めた。ただし、ソフィ・ジェルマンは本名ではなく偽名での文通であることを選んだ。書簡の内容も数学に関する内容であり、ガウスはフランスにいる数学者との手紙のやりとりをしていることは理解していたが、文通相手が女性であることは知らなかった。
ガウス自身が、女性相手に文通をしていたことを知ったのは、フランスがドイツに侵攻したときである。身の危険を案じたガウスであったが、友人の娘から身の安全を守るように言われたとフランス人の将軍からの言葉があった。ここではじめて、自分が三年間に亘って文通をしていた相手が女性であったと知ったのである。

 

人類がもし差別をしない生物であったなら今よりももっと発展していたのではないだろうかという仮定は、歴史の名かで何度も目にしてきた差別に接するたびに思い浮かべる感想である。