本書は2014年に刊行された "Absolute Value: What Really Influences Customers in the Age of (Nearly) Perfect Information(絶対的価値: (ほぼ)完全な情報の時代に、顧客に本当に影響を与えるものは何か?)" の翻訳書である。(邦訳書刊行年:2016年)
原著名と邦訳書名が大きく違うのはよくあることだが、本書については邦訳書名のほうが著者達の意図するニュアンスをより的確に捉えていると言えよう。
本書で訴えているのは、従来のマーケティングの常識に対する挑戦である。すなわち、情報が入手しやすく、簡単にアクセスできるデジタル時代において、消費者の意思決定がどのように進化してきたかを掘り下げ、その結果を描き出している。
ポイントとなるのは四点存在する。
一つ目は、インフルエンス・ミックス。二人の著者の提唱するこの新しいフレームワークは、他のユーザーからのレビュー、専門家の意見、価格比較アプリ、新興テクノロジーなどの要素を考慮することで、消費者がどのように選択を行うかを再定義するものである。消費者は平均して、こうした情報武装をした方がより良い決断を下せることを強調している。
二つ目は、パラダイムの転換。従来のブランド戦略やロイヤルティ戦略は妥当性を失いつつあると主張した上で、単に消費者の認識を形成するのではなく、企業は真の顧客ニーズに応えることに焦点を当てるべきであることを訴えている。
三点目は、コミュニケーション戦略。二人の著者は、企業がコミュニケーション戦略を適応させる必要性を強調している。マーケティング担当者は、消費者が今や複数の情報源から情報を求め、その意思決定は従来の広告を超えた様々な要因に影響されていることを認識しなければならないというのが本書での主張である。
そして最後に、市場調査とセグメンテーション。効果的な市場調査プログラムとセグメンテーション戦略の設計に関する洞察を提供する。企業は、変化する消費者の状況に合わせたアプローチをとるべきであるというのが本書の内容である。
いずれもMBAで習う内容ではあるが、さほど一般的になっているとは言えない。2014年刊行、2016年邦訳という少し古い本ではあるが、その内容は現在も色あせることがない新鮮さを保っている。