德薙零己の読書記録

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青木健著「ペルシア帝国」(講談社現代新書)

ペルシア帝国という名は何度も目にする。しかしそれは、ギリシャの、マケドニアの、ローマからの視点であり、当事者の視点では無い。

本書はペルシア帝国について知らないということをこれでもかと突きつける。

たとえばアケメネス朝ペルシア。これはギリシア側の命名であり、ペルシア帝国の歴史をペルシア側から捉えるとハカーマニシュ朝となる。そもそもの名称が西洋古代史における主役と言うべきギリシアからの視点であり、歴史学の上でのペルシアはその多くが敵役としての描写になってしまう。どのような国であるかという概念についてもギリシアの側から見た描写であり、敵役としての描写である。

そのため、ペルシア帝国自体がどころなく神秘的な国家という扱いになっている。だが、現実のペルシア帝国はリアリズムの極致というべき国家である。というより、そうでなければあれだけの広大な領土を統治する国家として存続できなかった。国家内に都市が勃興し、国内外の交易がもたらす経済があったからこそ、そして、国力の根幹を成していた軍事力によって国家を強大なものとさせ、東は現在のアフガニスタン、西は現在のエジプト似至る強大な領土を有する国家として存在することができたのだ。

もっとも、政治史に視点を移すと、手放しで誉めていられる状況でもなくなる。それも股リアリズムの一側面と言えばその通りであるが、くりかえされる宮廷クーデターと兄弟間の殺戮は、強大な国家たる古代ペルシアがその国力を万全に発揮することができなかった理由の一つと言えよう。

我々日本人が世界史と接するとき、多くはギリシアやローマからペルシア帝国を捉えることになるはずだ。しかし、本書はペルシア帝国そのものについて知ることとなるスタートとなるはずである。