ファミコンソフト「ドラゴンクエスト」がスタートというわけではないが、日本では異世界をイメージさせる光景として西洋中世らしき舞台がよく使われる。なろう系小説をはじめとする異世界転生者モノを思い浮かべていただければ、日本人の考えるところのイメージとしての西洋中世世界がどのようなものかが脳裏に浮かぶであろう。
そして同時に、脳内にイメージとして浮かび上がる西洋中世世界は現実の西洋中世世界ではないと理解するものの、何となくこのような感じだったのではないかと感じもするであろう。現在より遅れた文明で、どこか牧歌的で、安穏とした風景が広がるというイメージだ。
本書はそのイメージを破壊する現実が描かれている。本書に取り上げられているエピソードを記すだけでも、西洋中世世界が牧歌的で安穏とした空想世界ではなく、現実的で人間的な世界であったと思い知るはずだ。
14世紀のイングランドで「酒を造ってはならない。造った者は罰金刑とする」という法律ができたら、こうなった。
酒を造った人が領主に自主的に罰金を払った後、「私は法に背いて酒を造ってしまいましたが、領主様にちゃんと罰金を払いました。しかし、造ってしまった酒はまだ破棄できておりません。そこで、破棄する権利を1杯1ペンスでお売りいたします」という商売が生まれた。
領主は「領内で酒を造っていた者から正しく罰金を徴収いたしました。なお、酒を造っていた者は、自分で造った酒を自主的に破棄したと報告しており、領内に住む者の多くが酒の破棄に協力しております」と国王に報告した。
上に政策あれば下に対策あり。
人間のすることなどいつの時代も変わらないのである。