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フェリックス・マーティン著,遠藤真美訳「21世紀の貨幣論」(東洋経済新報社)

21世紀の貨幣論

誰が言い出したか、古(いにしえ)の人類は貨幣など持っておらず物々交換で経済を回していた、と。人口に膾炙されるところでは、貨幣を生み出す前の人類は物々交換を前提とし、魚を、肉を、野菜を、あるいは木製の日用品や土器を、さらには服や布地を持ち寄って交換していた、と。

しかし、そうはいうが、その証拠はどこにもない。痕跡もなければ文献もない。

その代わりに本書は、フェイと呼ばれる大きな石貨を中心とした高度な貨幣システムが発見された太平洋のヤップ島に関するエピソードを掲載する。著者はこの島でのエピソードをもとに、貨幣の起源に関する伝統的な理論や、貨幣とは何かについての我々の理解を覆していくのだ。そして、貨幣に対する一つの筋道を打ち立てる。

すなわち、貨幣とは有形物でも貴金属に基づくものでもなく、社会的に創造された譲渡可能な信用システムである。貨幣というものは、単に交換を促進するためのメカニズムではなく、人々が互いに負っているものを記録する方法なのだ。ヤップ島の石貨は極めて大きな価値を持つ貨幣であり、大きなものでは一つで一軒の家を買える。それなのに屋外に放り出されている。それでいて誰も盗もうとしない。

盗まないのは当然で、誰がその石貨の持ち主なのかを知っているのだ。石貨の存在は正当な取引による交換の記録であり、取引と無関係の第三者が盗み出したところで、その石貨を使うことはできない。正当な持ち主にとっては貴重な資産であるが、その他の人にとっては大きな石なだけなのだ。

その記述を経て、著者は本書において貨幣の創造における民間銀行の役割と、それが金融危機に与えた影響について言及している。著者はここで、主流派の経済学者たちの貨幣に対する視野の狭さを批判し、これが2008年の金融危機リーマンショック)につながったと非難する。この意見には同意しきれない人もいるであろうが、それでも意見として目にしておいた方がよい意見である。

本書は歴史、経済学、哲学の融合であり、そもそも貨幣とは何かについて新たな視点を提供している一冊である。