德薙零己の読書記録

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キャス・サンスティーン著、田沢恭子訳,齊藤誠解説「最悪のシナリオ: 巨大リスクにどこまで備えるのか【新装版】 」(みすず書房)

最悪のシナリオ――巨大リスクにどこまで備えるのか【新装版】

本書は、原著刊行年が2007年、邦訳が2012年、そしてこの新装版が2022年という一冊である。

邦訳の前年に何があったか? それは何も書き記さなくても御理解いただけるであろう。まさに「最悪のシナリオ」が具現化してしまった。

新装版刊行の前々年に何があったか? こちらもまた、書き記さなくても御理解いただけるであろう。こちらもまた、「最悪のシナリオ」が具現化してしまった。

ただ、後世の世界史の教科書に載るような「最悪のシナリオ」はそれほど頻繁に起こる代物ではない。実際には杞憂に終わることが通例である。ただしそれは、何もしなければ最悪が起こってしまうのを放置することを意味するのではない。対策を練れば最悪を脱することができることがわかっている未来への対処である。地震にしても、パンデミックにしても、予期せぬところで想像を超えた規模で起こったがために「最悪のシナリオ」が具現化したのであり、予期できるならば「最悪のシナリオ」の具現化は回避できる。

本書は、心理分析、予防原則、費用便益分析の観点から「最悪のシナリオ」への対処をまとめた一冊である。

心理分析は、最悪のシナリオに直面した際に人々はどのように振る舞いがちなのかを分析する。特に、過剰反応と完全な無視という極端な心理傾向がリスクへの対処にどのように影響するのかを論じている。

予防原則は、個人と政府は最悪のシナリオについてどのように賢明に考えるべきかを検討する。予防原則を精緻化しながら、適切な対応策を探求する。

費用便益分析は、巨大リスクにおける費用便益分析の可能性と限界を追求する。

冒頭にも記したが、本書の原著刊行年は2007年である。その書籍を現在になって読み返すと、その間の出来事を経験したことで新たに見えてくるものがある。