平安貴族に対するイメージを源氏物語や枕草子などの古典から作り出すと、そこには雅やかなイメージが生み出される。平安貴族の悪事についてイメージすることがあったとしても、そこでの悪事とは影から犯罪を指図するという図式での悪事であり、平安貴族本人が悪事に手を染めるというイメージは生まれづらい。
だが、現実の平安貴族はそのような雅やかな存在ではない。現在放送されている大河ドラマ「光る君へ」の描写は決してオーバーな表現ではなく、本当に殴り合い、本来ならば穢れとして忌避されるはずの流血の惨事でさえ、平安貴族には日常の光景であったのだ。
本書には、短絡的で暴力的な平安貴族の現実が描かれている。
藤原道隆の孫である藤原経輔は、紫宸殿で源成任と殴り合いを演じた。
本書は、平安貴族の加害者としての側面だけでなく被害者としての側面も描き出している。
藤原道綱と藤原道長の兄弟は公衆の面前で大量の石を投げつけられた。
そして藤原伊周は、また、花山院は……
あまり細かく書くとこれからの大河ドラマのネタバレになってしまうので控えるが、御世辞にも従来のような雅やかさのイメージを破壊するに十分な現実が描き出されている。