マルクスは権力と無関係の一評論家として理論を語ったのに対し、ケインズは権力の一翼を担う責任を伴って現実に向かい合っていた。第一次大戦も、第一次大戦後のイギリスの混乱も、大恐慌も、第二次大戦もケインズはイギリス大蔵省の一員として財政面からイギリス国民の生活を支える使命を負い、責任を全うしていた。
ゆえに、ケインズの行動は徹頭徹尾現実的であり、現実を解決するための方策に終始していた。まず理論を掲げて社会を理論通りに向かわせるのではなく、社会の現実があって、現実の問題を手直しすることに終始していた。その結果どうなったか?
ケインズの理論には一貫性がない。時代とともに変わる。変わらざるを得なくなる。
その代わり、結果を出す。現実に理論を合わせるのであるから、理論のほうが頻繁に変わる。変わらざるを得なくなる。
本書はケインズの伝記である。19世紀末から20世紀前半を生きたイギリス知識人の伝記であり、その時代の知識人社会を描き出す書籍である。ケインズの人生を、ケインズの過ごした時代を、そして、ケインズの提唱してきた経済理論を理解する最高の書籍である。