德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

P.F.ドラッカー著「新しい社会と新しい経営」(ダイヤモンド社)

昨日の記事と同様、本書は昭和47年に日本語訳が刊行された書籍をドラッカー・クラシックスとして平成28年電子書籍化された著作である。

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その上で本書について考えなければならないのは、原著刊行が1950年、すなわち、東西冷戦が明瞭化し、西側諸国の政治家や経済人、そして、西側陣営で生きていく全ての人が、西側陣営としていかなる経済を生み出し、第二次大戦後の世界で生きていくかを考えなければならなくなっていた時代に刊行された書籍であるという点である。現在に生きる我々は東側諸国の貧困と混迷を知っているが、当時の人はそれを知らない。暗黒らしき情報は伝わっているが、この時代はまだ東側諸国の情報隠蔽が成功していた時代である。そのため、現実の東側諸国の経済ではなく、宣伝上の東側諸国と対峙しなければならなくなっていた時代に刊行されたのが本書だ。

ドラッカーといえばマネジメントという単語が真っ先に思い浮かぶが、本書も例外に漏れず、第二次世界大戦後の社会の変容と、個人や組織が直面する課題を探求した著作であり、社会の未来を形作る上でのマネジメントの役割について示唆に富む分析を提示している。

本書は1950年時点における社会の動向を分析し、その帰結を予測するドラッカーの卓越した能力を示している。ドラッカーの鋭い観察眼と先見的思考により、本書は示唆に富み、知的好奇心を刺激する読み物となっている。彼は知識ベースの経済の台頭を鋭く予測し、知的資本の重要性が高まっていることを強調している。継続的な学習、イノベーション、適応性の必要性を強調する彼の言葉は、目まぐるしく変化するテクノロジー主導の現代社会において、より強く響いてくる。

そしての中心テーマのひとつとして、前述したマネジメントの役割を挙げている。ドラッカーは、マネジメントが企業だけに限定されるものではなく、政府機関、教育機関非営利団体を含むあらゆる組織に及ぶことを強調している。そして、これらの組織が円滑に機能し、成功するためには、効果的なマネジメントの実践が重要であると強調する。社会的、かつ、文化的な力としてのマネジメントに関するドラッカーの洞察に満ちた視点は、本書の出版から数十年経った現在でも、高い関連性と影響力を持ち続けている。

ドラッカーは、新しい社会における社会的責任の概念とその重要な役割を強調している。企業には社会に積極的に貢献する倫理的義務があると主張し、それを怠った場合の潜在的な悪影響を概説している。ドラッカーは、企業行動が長期的に与える影響を重視し、倫理的なビジネス慣行を求めた。彼の考えは、長年にわたって大きな支持を得てきた現代の企業の社会的責任運動の基礎を築いた。

本書には、今日もなお真実であり続ける予言的観察が詰まっている。ドラッカーは、グローバリゼーションの台頭と経済の相互連結、組織の複雑化、分権化と参加型意思決定の必要性を予見している。技術の進歩が社会に与える影響、情報管理の重要性、高齢化社会の課題に対する洞察は、新たなトレンドの長期的な意味を把握するドラッカーの能力を示している。

本書はその後の多くのマネジメント理論や社会理論の基礎を築いた、影響力と示唆に富む著作である。ドラッカーの先見性、分析力、先見的思考は、本書をマネジメント分野への不朽の貢献としている。彼の予測のいくつかは正確に予想通りに展開されなかったかもしれないが、適応性、社会的責任、マネジメントの変革力という包括的なテーマは、急速に変化する今日の世界においても極めて妥当なものである。

本書は原著が70年以上前に刊行された書籍であるものの、社会、組織、そして我々の集合的な未来を形成するマネジメントの役割のダイナミクスを理解することに関心のある人にとって、引き続き必読の書である。