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塩野七生著「ローマ人の物語XIII:最後の努力」(新潮社)

最後の努力──ローマ人の物語[電子版]XIII

ディオクレティアヌスによって軍人皇帝時代に終わりを迎えたが、後に残ったのは絶対君主としてのディオクレティアヌスであった。広大な領土を統治するのは一人の皇帝で可能ではなく帝国全体を四つに分け、東西双方で正帝と副帝の両名、計四名の皇帝を配置する分割統治、「四頭政治(テトラルキア)」を始めた。

これはたしかに帝国を統治できたが、国家の統治機構が四倍に増え、税負担も四倍に増えることとなり、国民負担はあまりにも大きくなってしまった。また、人口減少社会に突入しながら軍隊規模を維持するのに困難になったために事実上の徴兵制となり、もはやローマの国民であることのメリットが喪失してしまっていた。

さらに、四頭政治(テトラルキア)はディオクレティアヌスの存在によってはじめて成立する政治体制であり、ディオクレティアヌスの引退と同時に機能しなくなるものであった。理論上は副帝が正帝に昇格し、空席となった副帝に新たな人物が就くというものであるが、四頭政治(テトラルキア)はディオクレティアヌスの引退からただちに勢力争いを繰り広げる体制へと変貌し、争いが繰り広げられた後にコンスタンティヌスによってようやく統一を迎えた。

コンスタンティヌスディオクレティアヌスと違ってキリスト教を公認し、それまでの弾圧は終わりを迎えた。ただ、ローマ帝国の衰退は止まることなく、首都ローマですら必ずしも皇帝の滞在する都市でなくなっていた。コンスタンティヌスが選んだのはビザンティウムを新たな首都とすることである。首都の存在する地域であるイタリア半島は帝国の多くの地域の一つでしかなくなり、ローマ帝国は次第にその重心を東へと寄せていくこととなる。