德薙零己の読書記録

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伊東ひとみ著「キラキラネームの大研究」(新潮新書)

キラキラネームの大研究(新潮新書)

本書のタイトルにもある「キラキラネーム」、ネット上では「DQNネーム」とも呼ばれる珍妙な名付けは、一言でまとめると名付けをした人間の学力の低さを示している。それで人生を破壊された子は数多くおり、親と絶縁し、自らの力で家庭裁判所での改名手続に成功した者もいる。

と、ここまでは多くの人が理解するところであろう。

しかし、本書は上記の概念をさらに踏み込んでいる。

この現象が単に親の無教養や浅慮なだけではなく、日本語の本質と深く関わっていると指摘しているのだ。「苺苺苺」と書いて「まりなる」、「愛夜姫」と書いて「あげは」、「心」と書いて「ぴゅあ」といった、奇妙としか形容できない名前であっても、突き詰めていくと日本語の特性と漢字の取り入れによる影響を反映した結果なのだと著者は述べている。

その上で、本書は数多くの実例ないしは伝承の真相を通じて、日本語の常識を覆し、新たな日本語論を展開している。キラキラネームの構造を突き詰めていくと、日本語の深層へと繋がっていくのである。

ちなみに著者は、ネット上の伝承である「光宙」と書いて「ぴかちゅう」と読ませる人がいるという伝承には懐疑的な返答をしている。江戸時代に勘解由小路光宙(かでのこうじ・みつおき)という公家がいたこと、彼の日記である「光宙卿記」が現存しており、江戸時代末期の公家の日常を知る重要な史料の一つになっているのはその通りであるが、そもそも彼は「みつおき」であって「ぴかちゅう」ではない。