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桃崎有一郎著「平安京はいらなかった:古代の夢を喰らう中世」(吉川弘文館)

平安京はいらなかった -古代の夢を喰らう中世- (歴史文化ライブラリー)

何ともミもフタもないタイトルであり、平安時代叢書を書いている私としては逡巡するところのあるタイトルであるが、読んでみればまさにその通りである。

すなわち、平安京は完成しなかったという事実である。

どうして完成しなかったのか?

結論から言えば、完成させる必要が無かったからである。本書はその点を突いている。

歴史の教科書には平安京の地図が載っていることが珍しくないが、あれは正確な平安京ではない。歴史の教科書に載る平安京平安京都市計画であり、現実の平安京では無かったのである。平安京は完成することなく工事は途中で打ち切られ、都市としての機能を開始させても朱雀大路の東である右京は事実上破棄されて東部の左京に集中するようになった。また、この朱雀大路についても本書は実用的なものではなかったと喝破する。そもそも南北の移動に利用することがメインな道路ではなく、壮麗な演出を主目的とする空間であった。この主目的が失われ、都市としての平安京は東半分で十分であることが判明すると、平安京の計画は現実に即さぬ過大なものであると示されたのである。

ただ、これは本書の主張と私の主張との相違点であるが、私はやはり平安京を完成させるべきであったと考えている。平安京の歴史において何度も刻まれることとなる水害記録を突き詰めていくと、工事を途中で止めてしまったために水害に遭うことが珍しくない都市へとなってしまったことに行き着く。また、平安京の需要を考えると都市機能は半分で問題なかったという点も、そもそも都市機能を完成させれば需要そのものが喚起されることを踏まえると、正しいとは言い切れなくなる。

本書の著者と私とのこのあたりの意見の相違、そして判断については、本書を御覧になっていただいた上で示していただきたい。