德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ビョルン・ヴァフルロース著,関美和訳「世界をダメにした10の経済学:ケインズからピケティまで」(日本経済新聞出版)

経済学の「通説」を批判的に検証している書籍である。

「不況が起きたら、財政出動して景気を刺激せよ」

「資本主義は搾取の体制である」

「格差問題が経済成長の足かせとなっている」

これらは現在も広く語られており、選挙での争点となる通説でもある。この通説に対し、市場の最前線で活躍する著者が、多くの経験、理論、データをもとにチャレンジしているのが本書である。

たとえば、ケインズ理論は1970年代に否定されたが、2000年代の金融危機を経て再び亡霊のように復活したことは記憶に新しい。しかし、その理論が現実社会に歪みを与えていると本書は主張している。

財政出動による景気刺激や資本主義が搾取の体制であるという考え方は、今なお多くの人々が信じているが、本書ではこの経済学の理論が間違っていると主張している。

市場原理主義を目の敵にして、政府介入を推し進めると、良い結果なんて生まれないとも主張し、市場主義、自由主義の立場から、縦横無尽に数々の経済理論を批判している。

必ずしも本書の主張が正しいとは言い切れない。実際に本書は数多くの批判を受けている一冊である。しかし、経済理論とそれが我々の世界に与える影響についての批判的思考を刺激する、魅力的で洞察に満ちた読み物であることは間違いない。