大地を変えることはできない。
気候を変えることもできない。
しかし、社会を変えることはできる。
絶対的な豊かさを手に入れたければ、今の相対的な豊かさを手放さなければならない。
「他の人より豊かである」は「全体としては貧しい」への道をたどるのみ。
この書にはそれらの例証が載っている。
歴史を学ぶ者の多くは、現在の社会に観られる問題を解決し、より良い社会にするためにはどうすべきかというアイデアに接したとき、怪訝な目をすることが多い。それは何も、アイデアに嫉妬しているわけでも、物事に対して斜に構えているわけでもなく、過去に存在した失敗をもう一度繰り返すのかという諦念なのである。
言うなれば、歴史を学ぶということは、自らの知力を社会科学におけるAIとすることなのだ。AIは精密な計算をするのではなく、条件を少しずつ変更しては何度も何度もコンピュータ上で計算をし、その中で最高の答えを選択するというものになっている。人間が一度しか体験できないことをコンピュータの世界で何回も、いや、計算回数だけに目を向ければ何兆回も計算して、その中からベストチョイスを選び出すという仕組みだ。歴史を学ぶということもAIと同様に、知りうるベストチョイスを選び出すということである。