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呉座勇一著「平家物語と太平記:通説の虚像を暴く」(朝日新書)

平家物語と太平記 通説の虚像を暴く (朝日新書)

德薙零己の平安時代叢書は全20集からなっている。1集あたりだいたい25年、長いと50年を一つの作品としているが、第十七集だけは例外である。

治承三(一一七九)年一一月一七日。治承三年の政変。平家が日本国の天下を獲得。

元暦二(一一八五)年三月二四日。壇ノ浦の戦い。平家滅亡。

この間のたった5年半だけが「平安時代叢書 第十七集 平家物語の時代 ~驕ル平家ハ久シカラズ~」である。しかも、今のところ平安時代叢書全20集のうち第十七集が最長の文章量である。

なぜか?

それだけ書くことが多いのだ。

平安時代叢書の基本スタンスは「平安時代を全部書く」である。書くことの多さは歴史資料の多寡に比例する。それは何も文献資料に限ったことではない。発掘が語る史料もあるし、自然科学が語る史料もある。ただ、それでも資料の多寡がどうしても存在する。

源平合戦平家物語という圧倒的知名度を持つ文学作品があり、知名度の比例する形で他の史料が存在する。源平合戦期は日本中を震撼させる大事件の連続となる時代であったために同時代資料が多い上に、多くの研究者が源平合戦を研究してきたために、数多くの研究書が存在する。

ただ、どんなに資料が多くても、どんなに研究書が多くても、源平合戦期の描写となると、やはり基礎となるのは平家物語なのだ。作品としての虚構を踏まえても平家物語の描写がどのように間違っているのかという記載を踏まえた上での叙述とするしかないのだ。

本書は、人口に膾炙されているがゆえに德薙零己が苦しんだ源平合戦期の基礎資料である平家物語と、平家物語と同様に南北朝の動乱期を書き記した太平記という二つの文学作品について、成立の経緯、その虚構性と真実性を分析する一冊である。先に記しておくと、本書から平家物語太平記に描かれている歴史描写を深めることは期待しないでいただきたい。それよりも客観的な視点から平家物語太平記そのものを深く理解し、同時代を深く理解することになるはずである。