知らず知らずのうちに私はThreadsでは算数の問題を出すオッサンという扱いになってしまってるが、自分で言うのも何だが、私は数学に詳しいわけではない。何しろ三流私大の文系出身だ。それでも算数の問題を投稿しているのは、それがパズルを解く感覚になっているからである、また、ITエンジニアとしての日々を過ごすことから、数学というか、算数というか、そうした知識を身につけないとならないという使命感に覆われているからである。
数学のスペシャリストなわけでもない私が本書のような数学に関する本を読むのも、歴史が好きで大学で歴史を学んでいたことに加え、ITエンジニアとしての使命感が介在しているからである。
本書はかの有名な
xⁿ+yⁿ=zⁿがn>2のときに整数解を持たないこと。ただし、xyz≠0とする。
というシンプルな定理、いわゆるフェルマーの最終定理が、なぜ300年以上に亘って数学者たちを魅了し、苦しめたのかを追体験する一冊である。数学の研究者にとってもは物足りない内容なのかも知れないが、私のような歴史を学んできた者、また、ドラマや映画を愛好する人にとっては、本の上で数学者達とフェルマーの最終定理との戦いを追体験させてくれる。
本書は、フェルマーの最終定理のルーツを古代バビロニアやギリシャの数学史から遡り、ピタゴラス、オイラー、ガウス、ガロア、アーベルといったなどの巨匠たちの挑戦を時系列で描き、物語のクライマックスであるアンドリュー・ワイルズの7年間もの孤独な闘いに焦点を当てる。谷山豊と志村五郎の日本人数学者たちによる貢献、フライ、リベット、メイザーらの革新的なアイデア、そういった証明の鍵となった過程をドラマティックに描き出し、証明の欠陥発見と修正の苦闘が取材に基づく生々しいエピソードとして描かれ、数学研究に関わる人達の人間臭さを浮き彫りにする。
ありがたい点として、専門的な数学を歴史的逸話や人間ドラマに溶け込ませ、読みやすく仕上げている点が挙げられる。ガロアの決闘死やアーベルの貧困死などの悲劇的なエピソードは、数学においては多大なる損失であったが、それでもなお、定理の証明を単なる論理の積み重ねではなく、情熱と挫折の物語なのだと教えてくれる。
本書刊行は1999年、文庫化は2003年と、いずれも古い本であると言える。それでも本書の魅力は褪せることなく輝いている。



