私事であるが、私は某金融機関でITエンジニアとして働いている。要はシステムエンジニアだ。システムエンジニアというとコンピュータの画面に向かいコンピュータプログラムを作る仕事と思う人もいるだろうし、たしかにそれも仕事としているのであるが、実際にはコンピュータ相手の仕事だけでなく人間相手の仕事も多い。
実際には様々なシステム開発手順があるのだが、大規模システム開発で用いられるウォーターフォールでは、まず最初に「どういう要件をコンピュータを使って実現させたいのか」という要件定義があり、この要件定義を受け取った我々エンジニアは「コンピュータを使ってこのように実現させます」という最初の設計をする。この設計のことを基本設計という。
このとき、自分の仕事相手として向かい合うのはコンピュータではなく人間となる。コンピュータは仕事の相手ではなく仕事の道具となる。人間相手に、どういう手順で、どういう方法で、どういうスケジュールで、コンピュータシステムを作り上げるかを説明する資料を作る。なお、少なくとも現時点では、資料中に英単語が登場することは頻繁にある者の、日本語での資料しか作ったことはない。
2021年に刊行された本書は、論文、報告書、レポートなどの「知的文章」の書き方を指南する入門書であり、まさに私のような職業をしている人間が必須となるスキルを身につける手順を示してくれている一冊である。
本書の著者は、文章の書き方そのものを研究している研究者というわけではない。しかし、50年以上ものキャリアで300編以上の英語論文を発表し、大学学長や日本学術振興会要職を歴任してきた人物である。文章を実際に何度も書き記してきた著者だからこそ、これまでの経験を活かした文章の書き方を、学生や、我々社会人向けに指南できるのである。
本書の内容を大きく示すと、日本語の基盤を重視しつつ、英語力向上やデジタルツール活用を織り交ぜることを目指しており、国際化社会での実践を意識した内容がとなっているが、無論、国境の内部に留まる、もっと小さく言えば会社内のみで完結する――社外に持ち出そうものなら間違いなく処罰される機密文書も含む――文章を書くことの実践を指し示している。また、本書は英語での論文執筆を繰り返してきた著者であるがゆえの、非英語ネイティブスピーカーならではの苦悩と努力、そして、日本語で生きてきた者が英語で文章を書くことを求められたときの重要なポイントも書き記してくれている。これは日本語の資料しか作ったことのない、そしてこれからも日本語の文章を書くことが仕事となるであろう私にとっても、重要な視点を差示してくれている。
学生だけでなく社会人にも、業務において文章を書くことが多い職種に就いている社会人にぜひとも読んでもらいたい一冊である。



