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原田勝正著「鉄道の語る日本の近代 読みなおす日本史」(吉川弘文館)

鉄道の語る日本の近代 読みなおす日本史

先に記しておくと、吉川弘文館から刊行された本書はたしかに令和7(2025)年の奥付であるが、本書の原本は昭和52(1977)年の刊行であり、平成2(1990)年の改訂版を底本として再刊されたのが本書である。これはどういう時代かというと、JRでなく国鉄であり、新幹線は初版が東海道・山陽新幹線のみ、改訂版で東北新幹線上越新幹線が追加され、その他の新幹線は計画のみという時代である。

つまり、本書は鉄道を軸に捉えた日本近現代史の歴史書であると同時に、高度経済成長期を終えたあたりの日本やバブル崩壊前の日本の世相を記した歴史資料とも言える一冊である。

現在の日本は鉄道そのものが生活に深く根ざされている一方、本書に掲載されている日本の鉄道網の変遷を見ると本書刊行時点で既に減少が見えている。現在からするとまだ線路網が充実しているようにみえるが、やはり鉄道が減ってきていると感じる。

そもそもなぜ鉄道を日本全国に張り巡らせることとなったかと言えば、高速道路や航空機といった移動手段が無かった時代における最上位に位置していたのが鉄道であったからである。もっと言えば、現在でも鉄道の輸送能力は高速道路や航空機を上回るスペックを持っており、鉄道網の縮小は国内輸送状況の縮小につながる。それでも鉄道網が縮小しているのは再三の問題があるからであり、ビジネスとして鉄道事業の運営を考えると厳しい時代になってきている。

裏を返せば、明治時代に数多くの鉄道敷設が計画されたのは国内輸送の拡大にビジネスが絡みついていたからである。都市と都市の移動や都市内交通、観光地への移動といった移送需要があると見込み鉄道敷設を計画し、実際に建設したことで莫大な資産を獲得できる時代があったし、現在も大手私鉄は鉄道で利益を得ている。厳密に言えば鉄道だけではなく不動産や百貨店などの経営も含めてのグループ企業としてのビジネスとして利益を上げている。鉄道事業の縮小はこうしたビジネスに対する新規参入や、既存ビジネスの維持が困難になっている。

しかし、鉄道には公共インフラとしての側面があり、純然たるビジネスとしてだけで捉えて良い話ではない。国によっては国防の一観点として鉄道を捉えており、かつては日本も鉄道を国防の視点で捉えていた。また、鉄道そのものが第二次産業革命までの国内産業を集中させた一大事業であり、トンネル工事をはじめ鉄道を整備させることは国内外に自国の産業をアピールする大きなメルクマールであった。

その概念は現在でも残っている。鉄道の縮小や、新規着工に対する批判を訴えるのは自由だが、その訴えのあとで待っているのは産業の縮小と失業の増大、そして貧困化社会への片道切符である。そのことを忘れてはならない。