自然を守ろう。
このフレーズを生まれてからこれまで何度耳にしてきたことか。
今に生きる全ての人は自然を守るのを当たり前とし、自然環境破壊を悪と捉えて糾弾する。それが正しいと思っている。
しかし、今から1000年前のヨーロッパはそのような悠長なことを言っていられなかった。自然は人間社会に対する侵略者であり、少しでも手を緩めると人の住む土地を覆い尽くす存在であり、人間は自然と対抗することこそ生きることであった。
人の住む村や町は森という大海に浮かぶ小さな島々であり、他の町や村へと移動するのは危険を伴う航海にも似た大冒険であり、多くの人は生まれ育った村や町を出ることのないままに一生を終えた。
本書は中世ヨーロッパの生活を描いたエッセイテイストの歴史書であり、現在に生きる我々が中世西洋世界として想像する大聖堂や城塞といったイメージから、前述のように森を主題として掲げ、森に包まれた空間の中で生きる人達の暮らしを蘇らせている。
初版が1975年と今から半世紀前なこともあり、現代の視点から読むとやや古めかしいところもあるが、忘れないでいただきたいのは、西洋中世の生活史に関する最新の研究を本書はかなり早い段階で多くの人に広めてきたという点である。現在の西洋中世史研究者の中にも本書を入り口として研究に入ってきた人も多いし、西洋中世の世界を舞台とするフィクションを描く際にも本書に記された世界観を踏襲している作品は多い。
そうしたフィクション世界とリアルとの接点を本書は作り出す。



