頭がいい人ほどバカな間違いをする。
一見するとあり得ない言葉である。多くの人は高いIQや学歴を持つほど正しい判断ができると信じている。「あの専門家が言うのだから」「有名大学を出ているのだから」といったバイアスで、間違ってはいないと考えることが普通だ。しかし、本書の作者はこのように記す。むしろ知性が高い人ほど自らの誤りを正当化する能力に長け、バイアスに深くはまり込む危険がある、と。
たとえばノーベル賞受賞者が自らの理論に固執し科学的証拠を否定する。
たとえば医師や弁護士が専門知識を盾に誤診や誤判断を重ねる。
たとえば成功した経営者が自信過剰に陥り、失敗を認められない。
いずれも「知性」が防波堤ではなく、むしろ錯誤を強化する温床となっていることを示していると本書は記す。
作者はその上で
- 合理性
- 知的謙虚さ
- メタ認知
という三つの力を挙げる。論理的思考そのものではなく感情や動機、直感を意識的に扱う柔軟さ、誤りを避けるための思考よりも誤りを認め修正する態度、そして、知識の限界を自覚し、他者の視点に開かれる姿勢の重要さを指し示す。科学的知識の進歩が常に反省と再構築の過程にあるように、個人の思考もまた、絶えず検証されるべきであるとするのが本書の主張だ。
これは何も生来の性質ではなく後天的に獲得可能な資質だ。たとえば戦闘機パイロットの訓練に見られる冷静なリスク評価、たとえば教師が用いる省察的学習法、さらには科学的懐疑主義の訓練といった、知性を行動に転換する多様なアプローチを本書では紹介されている。すなわち、知能を使う力ではなく、知能を制御する力の重要性を身につけることである。



