その時代の視点を同時代のフランスに移すと、間もなくフランス革命が起ころうかという頃である。その時代の人の中にはフランスの社会情勢不安を危惧し、今後何かしら大きな問題が起こるであろう、大きな出来事が発生するであろうと考えた人はいた。しかし、つい先日までイタリアの一地域と見なされていたコルシカ島出身の、ボナパルトと名のる前はブオナパルテというイタリア語の名前であった弱小貴族の倅がフランスのトップに立ち、さらにはフランス皇帝になると想像した人はどれだけいたであろうか?
本書は革命前のフランスにおいてキャリアを積み重ねてきた、とはいっても特筆すべき結果を残してこなかったナポレオンが、フランス革命を契機として軍人として名を馳せ、指揮官としてヴェネツィアを、エジプトを、そしてヨーロッパ全土を制圧し、さらにはフランスの最高権力者となり、皇帝になり、ロシア遠征に失敗し、ネルソンに敗れ、百日天下の末に最後の流刑となるまでの足跡、そして、ナポレオンを権力者としていただくフランスとその統治下の地域の暮らしを新書一冊にまとめた書籍である。
たしかにナポレオンは英傑でり、また、侵略者でもあった。そして絶大な権力者であった。ただ、政治家としてはどうであったのかとなると、残念ながら合格点とするわけには行かない。フランス革命前の負の遺産の重さがあったのは事実だが、国民生活の向上という問題をナポレオンは成就させていない。戦争をしているからという理由でごまかすことに成功しただけである。
一方で、法典と文化について考えると、ナポレオンは一定の成果を残していると言える。今に生きる我々はナポレオンの影響を残す法体系の社会に行き、ナポレオンに関係する文化の中に生きている。この点は認めねばならない。



