いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

松原隆一郎著「経済思想入門」(ちくま学芸文庫)

経済思想入門 (ちくま学芸文庫)

本書はもともと2001年に「経済思想」の名で刊行されたのち、2015年にちくま学芸文庫として改版された一冊である。この改版に伴う後書きで著者はこのように書き記している。

経済学は社会科学の女王だと言われる。「科学」とは、イデオロギーではないというこいとであろう。そしてイデオロギーが特定の仮説への固執を意味するとすれば、科学たらんとする経済学は自らの信念を常に疑うものでなければならない。

これは経済学に限ったことではないが、全ての社会科学は自然科学と違って再現できない。理論が現実と合致しているか否かを記すには、自然科学のように実験を繰り返して同じ結果が得られた、あるいは机上の計算で同じ証明結果を得られたというような客観的評価ではなく、理論と合致する証拠を探そうとする。そして、多くの場合、社会科学は歴史に証拠を求めようとする。

本書はまず、経済学の学説の歴史を振り返り、それぞれに対して著者の解説を加えていく。いずれもその時代の最新の経済理論であり、後世に多くの影響を与えた経済理論である。経済学を専門に学ぶ者だけでなく、多少なりとも社会を学ぶ者であれば必ずその名を耳にし、その理論を目にしたはずの経済学の学説が展開される。冒頭に述べた通りり本書は2001年刊行の書籍であるため、今から10年前に世界を震撼させたトマ・ピケティは含まれていない。

本書の後半は、現在の我々が生きる社会を経済の側面から解説する。いずれも知っておかなければならない経済の構造であり、ビジネスパーソンであるならば詳細に解説できなくても知っていなければならない知識が詰まっている。

こう書くと経済に関する簡潔なガイドブックであるかのように感じるが、その感想は正しい。実は本書は、2001年の刊行当時、東京大学教養学部での「経済思想史」の参考書として活用されていた書籍である。現在我々が手にとって読んでいるのは四半世紀前の参考書の加筆修正版であり、たしかに手軽であるが、それでいて重厚な内容の一冊である。ビジネスの世界に生きる者も、社会を学ぶ者も、本書は格好の入り口となるであろう。