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塩野七生著「海の都の物語:ヴェネツィア共和国の一千年・上(塩野七生ルネサンス著作集4)」(新潮社)

海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年(上)―塩野七生ルネサンス著作集4―

ローマ帝国の滅亡は、ローマ人達に国家なき生活が求められる出来事であった。

国がなくなれば税も払わなくていいし負担も引き受けなくなるから結構なことではないかとアナーキストならば考えるかも知れないが、ローマ帝国滅亡後のローマ人達にとってローマ帝国がなくなったというのは、ローマ帝国が守ってくれていた蛮族の侵攻に対し、自分達自身以外に誰も守ってくれる存在がいなくなることを意味したのである。

イタリア半島の東岸の付け根のあたりに住む人は蛮族の侵攻から身を守るべく、人の住まぬ潟(ラグーナ)に逃れることを選び、潟(ラグーナ)に都市を築き、潟(ラグーナ)を根拠地として海運で生きることを選んだ。

その瞬間、都市ヴェネツィアが誕生し、ヴェネツィア共和国が誕生した。

ヴェネツィアは海に生き、海とともに存在する都市国家として、イタリアの有力諸国の一つとなったが、他の諸国が共和制から君主制へと移行するのが当たり前であったのに対し、ヴェネツィアだけは千年間もの長きに亘り、共和国であることを選び続けた。それは同時に、誰か一人のスーパースターが国家に君臨して国家に繁栄をもたらすのではなく、目を見張るほどのスーパースターではないものの堅実な実績を残す人物が続々と登場し、ヴェネツィアを強大な国であり続けさせる遠因になった。

何しろ、チェーザレ・ボルジアですらヴェネツィア相手には太刀打ちできなかったのだ。君主制国家であれば君主を倒せば国家を手にできる。共和制を名乗っていても絶対的な独裁者がいるならば、その独裁者を倒せば国家を手にできる。しかし、ヴェネツィアは誰か一人を倒したとしてヴェネツィアを手にできるようになるわけではない。元首(ドージェ)は国家を代表する人物であるが、元首(ドージェ)は権力者のうちの一人であって圧倒的な権力者ではないのだ。

本書はヴェネツィア共和国が誕生してから東地中海の海の王者になるまでを描いた一冊である。強力な理念に基づいて行動し結果を出す集団の驚異を読者は感じることになるはずである。