現在放送中の大河ドラマ光る君へでユースケ・サンタマリア氏が演じる安倍晴明は第32話で命を落としている。これは何も番組が打ち出したオリジナルストーリーではなく、史実でも安倍晴明は寛弘二(1005)年に亡くなっている。
さて、安倍晴明と言えば陰陽師、陰陽師と言えば安倍晴明というのが創作物におけるお決まりになっているが、村上天皇をはじめとする皇室からお呼びがかかるほどの陰陽師である安倍晴明は数多くの陰陽師のうちの一人であって、平安時代に生きる人にとっての陰陽師はもっと身近な存在であった。
そもそも陰陽師は国家公務員であった。占いも職掌としていたが、カレンダーの編纂や時刻管理、天体観測、気象観測がメインであった。現在のように機械を用いることができないこの時代、観測と人間の計算に基づかなければカレンダーを編纂できない。しかも、平安時代に用いられたカレンダーである長慶宣明暦は唐代中国から伝来したものであるが、発祥の地である中国大陸ではあまりにも複雑な計算のため早々にうち捨てられたのに対し、受け取った側である日本では複雑な計算をそのままこなし続け、江戸時代の渋川春海による見直しが行われる823年間に亘って使用され続けたのであり、その複雑な計算を残し続けることができたのも陰陽師たちが計算し続けてくれていたからである。
先に陰陽師を国家公務員であると記したが、陰陽師の存続していた国家組織を陰陽寮といい、現在の気象庁に相当する組織であった。陰陽師は陰陽寮に勤める公務員であり、現在の感覚で捉えると、現在の気象庁に勤める公務員であり、かつ、気象予報士試験に合格した職員と捉えるとわかりやすいであろう。難しい試験に合格した時代を代表するエリートで、かつ、公務員として安定した収入を得られる職業であったといえる。ただし、かなりの激務で、かつ、この時代の迷信にも付き合わされなければならなかったことは考えねばならない。
ちなみにこの陰陽師という職業、中国には存在しない。当時の人は中国由来の思想であると考えていたのと、用語のほとんどが中国語由来であるのと、中国から伝来した思想をベースとしているが、実際には日本独自のものである。