德薙零己の読書記録

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スチュアート・クレイナー&デス・ディアラブ著,鈴木立哉訳「Thinkers 50 ストラテジー」(プレジデント社)

Thinkers50 ストラテジー

1991年、アメリカのマサチューセッツ州でハリケーンによる4日間の停電が発生。その4日の間に、ソビエトでクーデターがあり、失敗し、ソビエトが滅亡目前となった。

停電からの復旧直後のテレビのニュースを信じることのできた被災者は少なかった。

この出来事を体験したのはリチャード・ダベニー。「脱「コモディティ化」の競争戦略」の著者でもあり、ダートマス大学タックスクール・オブ・ビジネスの教授である経済学者だ。このときの経験はダベニー教授にとってあまりにも大きな衝撃となった。たった四日間ほど世間と離れていただけで世界が激変していたのだ。

そのことが、氏の戦略に関する思考を激変させ、ハイパーコンペティションを生み出すきっかけとなった。

本書はThinkers 50シリーズの一冊であり、そのうちの「戦略とは何か」について現代の解釈の礎となってきた主要な思想と、過去二〇年にわたる思想家たちとのインタビューを紹介している。前述のリチャード・ダベニー氏の他、マイケル・ポーター、W.チャン・キム&レネ・モボルニュ、ゲイリー・ハメル、C.K.プラハラード、リタ・マグレイズ、ロジャー・マーティンといった錚々たる面々だ。

必然的に、本書に取り上げられる戦略論も、多くのビジネスパーソンであれば多少なりとも耳にしてきたことであり、その一つ一つについて詳細な解説書が刊行される戦略論である。そのそれぞれの戦略論について、いかにしてその理論が誕生したのか、その理論をいかにしてビジネス戦略のフレームワークとさせ、さらに具体的なビジネス環境に適用するかを提示している。

2014年刊行ともう10年前の書籍であるが、ビジネス戦略についての深い理解を持つ専門家だけでなく、この分野に新しい人々にとっても、その理解しやすさは変わっていない。複雑な概念を明確で直感的な言葉で説明し、読者がそれらを理解し、自身のビジネスに適用するのを助ける有用な一冊である。