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レジー・フィサメィ著,大田黒奉之訳「崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男」(東洋経済新報社)

崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男

ジー・フィサメィの名を知らなくとも、ここに掲載する二枚の写真は多くの人が知るであろう写真である。

ジー・フィサメィ氏はまさにこの写真を生みだした人物である。

経緯を記すと、2003年のE3で任天堂は記者の期待に応えるプレゼンテーションができなかった。それが1枚目の写真である。

その1年後、2004年のE3で任天堂は圧倒するプレゼンテーションを見せた。それが2枚目の写真である。

この二つの写真のプレゼンテーションに立ち会った人物こそ、任天堂アメリカ(Nintendo Of America: NOA)社長兼最高執行責任者(COO)をつとめたレジー・フィサメィ氏である。

本書はレジー・フィサメィ自身が、自らのキャリアをどのように構築し、その中で任天堂アメリカを立て直し、任天堂の精神をグローバルに展開してきたかを記した一冊である。

意外と思うかも知れないが、著者はゲームの愛好家の一人ではあるものの、ゲームにかかわる仕事をしたいと考えて大学で学び任天堂に就職したわけではない。当初はP&Gに入社し、その後はペプシコに転職してピザに携わり、その後の紆余曲折を経て任天堂アメリカに入社したという経歴である。アメリカにおける典型的なビジネスパーソンのキャリア構築と言えよう。

既に勤めている会社を発展させることにはもちろん全力を尽くすが、それと自らのキャリア構築とは別である。より優れた待遇が得られるならばそちらに移るのは誰もが当然と考える。

一方で、実力を高める機会も存在する。自らの力で掴み取っていかねばならず、誰かが用意してくれているというわけではないが、若くして自らの将来を直面し、自らの力で方法を探し、自らに学歴を付与していく。そのためには卒業後の軍隊入隊も選択肢にするし、軍に入ることを前提とした奨学金を得ていても軍に入らずに済む方法を見つけ出したならば実践する。

この人物にとって任天堂ビジネスパーソンのキャリアの多くを占める大切な時期である。しかし、任天堂だけがこの人物のキャリアの全てではない。任天堂を立て直し、軌道に乗せたならば次へと進む。ハゲタカよろしく後に何も残さぬのではなく、道路を敷いてから。今、アメリ任天堂は彼の敷いた道路の上をさらに開拓させている。